むとうゆたかのありがと横丁☆

essayist, copywriter and blog writer. ネコ大好き。カフェ好き。代表ならなんでも好き。フリーランスの、エッセイスト。コピー。仕事の話や私的なメッセージはspontaneusly1969@gmail.comまで。

うんざりして、肉をほうばることにした。

「ずるい」

また彼女は言う。

「ずるい」

僕は言い返すのを、やめてしまった。

「私、おいしいもの食べさせてくれないと

帰る」

と言い出した。

頭のなかで、ラーメン屋やファミリーレストラン

などが走馬灯のように浮かんだが、却下した。

ブラジル料理なんてどう?」

「いいわ、いきましょ」

僕らはなんとか妥結して、店に向かった。

表通りから、脇道に入った薄暗いところ

にその店はあった。

椅子はカウンターに5席。奥に4つ。

彼女はカウンターに座った。

「最近、政治の話ばかりじゃないの。非正規がどうの、

憲法改正がどうの、ヒトラーがどうの、チャップリン

の独裁者を見なおしたり、黒澤明の悪いやつほどよく

眠るをみたり、ちょっとはまっているんじゃ

ないの、よくないわ、そういうの」

「新聞読んでいてもさ、twitter眺めていても、

このままじゃあぶない、という記事ばかりなんだ。

調べたら確かにあぶないんだよな」

「あのね、私は生活の話をしたいの、花を

買ったり、美術館に行ったり、おいしいもの

食べたり、いい服着たり。そういうことって

大事なの。男の人にはわからないと思うけど」

肉の串焼きが運ばれてきた。

「おいしそう」

なぜか、肉は元気になる。不思議だ。

彼女は美味しそうにほうばっていた。

「旅に行きたいな」僕はつぶやいた。

「そうね、温泉なんかいいわね。旅はいいわ」

僕は政治やテロを聞いているうちに、

息苦しくなっていることに気づいた。

「旅か・・・・」

やっと、僕の肉が来た。ふたりでほうばっていた。